受け継ぐ手 | 小さな工場に宿る、覚悟と縁のものがたり | セリタホームズ

MABAYUI 眩い

輝かしい人生は、
眩さに満ちあふれる。

BASIC

2025.06.30

受け継ぐ手

祖父から父へ、そして息子へと受け継がれる板金職人の物語。 東京での就職を経て地元に戻った克己さんが向き合ったのは、父の「継げよ」という一言だった。 技術よりも難しいのは、父が築いてきた人との関係性を受け継ぐこと。 「親父が築いた繋がりで、今がある」と語る彼の声には、敬意と責任感が宿る。 屋根の端や雨樋といった「最後の仕上げ」を担う板金の仕事は、傷をつけたら終わりという緊張感の中にある。 8年かけて見つけた「自分のやり方」と、現場で育まれる仲間との絆。 家業を継ぐということは、そのまま受け取ることではなく、自分なりの形に育て直すこと。

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PROLOGUE

途切れそうな道にも、まだ光は射している。 迷いも、寄り道も、受け止めたその手の中に、 確かに宿る熱がある。 金属を削る音が響く小さな工場。 祖父から父へ、そして息子へ。 血縁だけでは繋げられない何かを、 丁寧に磨き上げるように受け継いでいく物語。

Chapter

1

継ぐということ

地元で、じいちゃんと見た背中の先に。

薄曇りの空の下、小さな工場に機械音が響いている。
金属を削る匂いと、油の混ざる空気。
幼い頃から慣れ親しんだこの場所に、克己さんは今も立っている。
「じいちゃんがね、板金やってたんですよ。
ちっちゃい頃、一緒に工場行くこともありました」
物心ついた頃から「家業」という言葉は、生活の一部だった。
けれど、迷わず一直線だったわけではない。
整備士に憧れたこともある。
建築設計を志した時期もあった。
東京での就職、慣れない一人暮らし——
「給料は良かったですけど、なんか違うなって。
自分、多分一人暮らし向いてないんですよ」
戻ってきた地元。
そして待っていた父の言葉。
「継げよ」
しぶしぶ、仕方なく——そう言いながらも、彼の声はやわらかい。
「一から作るって、やっぱかっこいいなって。
自分の手で、形にできるって、いいですよね」
やがて「なんとなく」は、「やるしかない」へ。
それが覚悟へ変わるまでには、2、3年かかった。
けれどその時間こそが、彼の中で確かな「自分の意志」を育てた。

Chapter

2

築かれた縁

受け取った関係を、こぼさぬように。

仕事を続けていく中で、克己さんは一つの事実と向き合う。
今の現場の多くは、父が築いてきた関係性の上にあるということ。
「正直、代わったときに仕事もらえるかが一番不安です。
だから、もっと自分が頑張らないとって」
父は、人とのつながりを大切にしてきた。
誰かにコーヒーを差し入れる。飲み会に参加する。
それは仕事の枠を超えた「信頼の積み重ね」だった。
「親父から教わったのは、技術よりも人との接し方でした。
親父が築いた繋がりで、今があると、よく他の方々から聞くんです。だから俺も」
いま、父は還暦を迎えようとしている。
背中で語ってきたその姿に、克己さんは少しずつ追いついてきた。
「親父ももうすぐ60歳。そろそろ交代の時期かなって。
代替わりして、親父に"もう大丈夫だ"って思ってもらいたい。
安心させたいんですよね」
継ぐことの難しさは、技術ではなく「関係性」だ。
受け取ったものをそのまま次に繋ぐために、
克己さんは今日も現場を走っている。

Chapter

3

最後の仕上げ

手を抜かない。ただ、それだけのこと。

屋根の端、破風、雨樋。
建物の外観をかたちづくる板金は、言わば「最後の仕上げ」だ。
目立たない。でも、見ればわかる。
「飾りみたいなもんですけど、傷つけたら終わりなんですよ。
だから一番気を遣います」
作業の正確さはもちろん、何よりも「丁寧さ」が問われる仕事。
そのプレッシャーの中で、8年。
ようやく「自分のやり方」が見えてきた。
「現場では、できるだけみんなと話すようにしてます。
それが一番、大事なことだと思ってます」
ある住宅会社の現場は、特別だと語る。
職人同士が仲良く、休憩も一緒。チームとして空気が通っている。
「ほんとに現場が"ファミリー"みたいなんですよ。ありがたいです」
今、克己さんには新しい楽しみもある。
仲間と始めたゴルフ。
仕事も遊びも本気で向き合える関係性の中で、
彼の世界は確かに広がっている。

Chapter

4

手渡すとき

まだまだ親父には追いつけないけれど。

金属が日の光をはね返す。
その鈍い輝きの中に、今日の仕上げが映っていた。
8年という歳月を重ね、
克己さんの中で「継ぐ」ということの意味が変わってきた。
それは義務ではなく、選択になった。
「まだまだ親父には追いつけないですけど、
安心してバトンを渡してもらえるように、ちゃんと頑張りますよ」
祖父から父へ、父から息子へ。
技術だけでなく、人との縁も一緒に受け継いでいく。
東京で感じた「なんか違う」という違和感が、
今では「ここでよかった」という確信に変わっている。
迷いながら戻った地元で、
自らの意志に育て直した覚悟。
その手には、確かに新しい世代の光が握られていた。

BASIC

EPILOGUE

小さな工場に、今日も機械音が響く。
金属を削る音、油の匂い。
変わらない日常の中で、
何かが確実に変わっている。
継ぐということは、
そのまま受け取ることではなく、
自分なりの形に育て直すこと。
彼の手の中で、
家業という名の物語が、
静かに次の章を刻み始めている。

OFF SHOT

インタビュー中のひとコマ。言葉を選びながらも、目には現場への責任と誇りがにじんでいました。

炎天下の足場で、外壁材の確認を行う髙野さん。細部にまで目を配りながら、確かな手つきで品質と安全を守ります。

見上げた先にも責任がある。高所での作業中、手を伸ばしながら丁寧に一つひとつの工程を確認する髙野さん。暑さの中でも揺るがない集中力が、現場の信頼を支えています。

現場はチームで築くもの。作業の合間に交わされる言葉や視線のやり取りが、安心感と信頼を育みます。支え合う空気が、建物と同じくらい確かな土台になっていく。

「段取り八分」と言われる現場づくり。全体を見渡す視線の先には、職人たちの安全と円滑な施工が見えている。何気ない一瞬にも、真剣な意図が宿る。

ヘルメット姿でカメラに笑顔を向ける一枚。炎天下の現場でも、汗を流しながら全力で向き合う日々。その姿からは、体力だけでなく心も強く、仕事に誇りをもって取り組む真摯な姿勢が伝わってきます。

休日は趣味のゴルフを楽しむひととき。プレーの合間に見せるリラックスした笑顔が印象的です。仲間との楽しい時間からは、チームの良い雰囲気が伝わってきます。仕事を通じて生まれたつながりだからこそ、こうした場で絆がより深まっていきます。

青々としたフェアウェイに向かって放たれる、渾身のティーショット。仲間たちはその一打に静かに見入ります。自然に囲まれたコースでのひとときは、日常を離れてリフレッシュできる大切な時間。心地よい緊張感と仲間の声援が、プレーに彩りを加えています。