
2025.08.10
朝のスイッチ
コンビニ経営15年、365日休みなしで駆け抜けた日々。 競合店の出現で決断した店の閉店、実家の家業の傾き、そして夫婦の危機。 「ごめん」の一言が言えないまま、すべてを一人で片付けた彼女の手は真っ直ぐだった。 空っぽになった時に救ってくれたのは、今の住宅営業の仕事。 倒産前の家業を助けたくて取った宅建の資格が、人の幸せに寄り添う道へとつながった。 「1回失敗しても、復活できる」という実体験が、お客さんへの想いを深くする。 毎朝鏡の前で口角を上げ、「今日もやるぞ」とスイッチを入れる儀式。 夫婦で温泉に行くささやかな楽しみ。 派手な夢はもういらない。変わらない日常を続けることが、彼女にとっての幸せの形。
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# セリタホームズ
# 女性の生き方
# 社員
# 逆境を乗り越える
PROLOGUE

人生は、想定外の繰り返し。 傷つき、立ち止まり、それでもまた歩き出す。 その足元に、静かな光が差し込むときがある。 コンビニのシャッターを上げる音。 鏡の前で口角を上げる朝の儀式。 失ったものも、見つけたものも、 すべてを抱えて今日も歩いていく人がいる。
Chapter
1
365日の重み
駆け抜けた15年と、一世一代の決断。
夜が明けきらぬ空の下、夫婦でコンビニのシャッターを上げる。
その音が、当たり前の朝を告げていた。
コンビニエンスストアの経営を始めたのは、子どもが3歳と1歳のころ。
「とにかく、がむしゃらでしたね」
大竹さんはそう振り返る。
365日休みなし。
子どもたちは店の片隅で眠り、宿題をして、ごはんを食べた。
仕事と子育ての境目がない暮らし。
それでも——家族4人で懸命に築いた日常が、何よりの誇りだった。
「お店があるから家族で過ごせる時間も少なかったけど、"家族で頑張ってる"っていう一体感があったんです」
けれど、15年が経ったある日、目の前に競合店ができた。
売上はじわじわと落ち、日々の疲れと不安が心に影を落とし始める。
「このままじゃ、じわじわと削られていく」
そう感じた二人は、思い切って店を閉じる決断を下した。
「一世一代の覚悟でした。15年分の思いを手放すようなもので」
駆け抜けてきた日々を思いながら、大竹さんは静かに言った。
ちょうどそのころ、実家の家業も傾き始めていた。
声の出なくなった父。
連鎖するように、心も暮らしも重くなっていった。
Chapter
2
言えない言葉
すれ違いの底で、それでも一緒にいた理由。
大竹さんの語り口が、ふと低くなった。
「一度、離婚しようと思ったことがあって」
店をたたみ、実家も傾き、声をなくした父の代わりに、誰かが立たなければならなかった。
あまりに多くの責任が、彼女の両肩にのしかかっていた。
そして、何も言わずにそれを支え続けていた夫に、
「ごめん」のひと言がどうしても言えなかった。
「家を出るときは、全部私が片付けました。家具も、ゴミも、次の家も。ひとりでやった」
泣いたのか、怒ったのか。
その表情は曖昧で、けれど、その手だけが、真っ直ぐだった。
重い荷物を運ぶ手。
電話をかける手。
書類にサインをする手。
「自分のせいで」と言いながら、
それでも進んできたのは、自分の足だった。
Chapter
3
恩という名の種火
再び歩き出した道で、見つけたもの。
手放したものが多すぎて、空っぽになった日々。
そんなとき、声をかけてくれたのが、今の職場だった。
「正社員で採用してもらえて。あのときは"救われた"って気持ちでした」
実は、宅建の資格を持っていた。
それは、倒産前の家業を助けたくて、何とか役に立ちたくて取ったもの。
「"助かる"って親に言われたんですよ。それが響いた。誰かの役に立てるならって思って、頑張れた」
偶然と縁が織り重なり、今、住宅営業の仕事にたどりついた。
最初は資格のために学んだことが、いつしか「人の幸せに寄り添う」日々につながっていた。
コンビニでお客さんの日常を見守っていた経験。
家業で培った人への気遣い。
すべてが、今の仕事の土台になっている。
失ったと思っていたものが、実は失われていなかった。
形を変えて、彼女の中に息づいていた。
Chapter
4
続ける人
苦しみも、喜びも、すべて引き受けて。
「今の仕事が、生きるモチベーションです。もう、それしかない」
そう言い切る彼女の目に、迷いはなかった。
過去に携わったすべての仕事が、人に喜んでもらうためだった。
けれど、住宅という仕事だけが、どこまでも奥深く感じられたという。
「1回失敗しても、復活できる。自分がそれを体験したから、お客さんにも強く伝えたいんです」
朝起きて、支度をして、
彼女は必ず、鏡の前で"スイッチ"を入れる。
「お化粧して、口角を上げて、"今日もやるぞ"って。自分の中に、仕事の顔があるんです」
鏡に映る自分の顔。
少し疲れた目元も、口角を上げれば変わる。
気持ちが沈む日も、眠れなかった夜も、
その儀式が、彼女を"戦える大竹さん"に変える。
「私ね、実は特別な友達っているようでいないんですよね。
なんでだろうって思ったら、夫が私のすべてを知ってくれているから」
やさしく言いながら、少しだけ照れくさそうに笑う。
孤独や悲しみを抱えながら、それでも立ち止まらない彼女の背中を、
夫はいつも見守っている。言葉少なに、けれど確かに。
"続ける人"の隣に、"支え続ける人"がいる。
そんな2人の在り方が、彼女の歩みの根を支えていた。
Chapter
5
変わらない日常という夢
いまを、まっすぐに歩いていく。
「今の楽しみは、夫婦で温泉旅行に行くことなんです」
大竹さんの顔が、ふわりとほころんだ。
「ご飯を食べて、お風呂に入って、ただゆっくりするだけ。
そんな時間が、いちばん幸せなんですよね」
派手な夢は、もういらない。
毎朝スイッチを入れて、今日も誰かに向き合うこと。
小さな一歩を積み重ねていく日々の先にこそ、
大竹さんが求めていた"幸せ"がある。
コンビニのシャッターを上げていた頃とは違う朝。
でも、誰かのために働くという気持ちは変わらない。
この先も、仕事を続けて、人とふれあって。
そして、また二人で温泉に行ける。
そんな"変わらない日常"を、穏やかに続けていけたら——
それが、大竹さんにとっての未来の夢なのだ。

EPILOGUE

鏡の前に立つ、今朝の彼女。
口角を上げて、深呼吸をひとつ。
「今日もやるぞ」
その小さなつぶやきが、
一日の始まりを告げている。
完成ではなく、途中に宿る光。
それを知っている人は、
もう十分強くなれる。




OFF SHOT

取材の中で、過去の経験や仕事への思いを語る大竹さん。穏やかな笑顔が印象的で、インタビュー現場の雰囲気を和らげていました。

取材中も笑顔を絶やさず、カメラに向かってピースサインを見せる大竹さん。周囲を明るく包み込む人柄が伝わる瞬間です。

営業会議で資料にメモを取りながら、チームメンバーと意見を交わす大竹さん。真剣さと明るさを併せ持つ姿が、職場の雰囲気を前向きにしています。

営業会議の中で過去の提案事例を振り返り、改善点や新しいアイデアを思案する大竹さん。丁寧な姿勢と深い思考が、提案力の源になっています。

複数のメンバーと資料を前にしながら、住まいの提案内容を検討する大竹さん。各担当の視点を取り入れ、最適なプランを導き出すための真剣なやり取りが行われています。

壁面に映されたプレゼン資料を見ながら、プランの改善や顧客の要望反映について思案する大竹さん。冷静かつ柔軟な視点で最終提案へとつなげています。

図面を確認しながら、設計担当と細部まで意見を交わす大竹さん。顧客の想いと設計のプロ視点を融合させ、最適な住まいを提案するための重要な工程です。

旅先のホテルで、バイキング形式の食事を楽しむ様子。和洋中の多彩な料理が並び、好きなものを少しずつ味わえる。ご夫婦水入らずの贅沢な時間が広がっています。

お気に入りの愛車に乗ってドライブに出かけた大竹さんご夫妻。目的地のホテルでの食事や観光を楽しむ前の、旅の始まりを切り取った一枚です。

大竹さん夫妻が最近愛用している色違いのお揃いサマーシューズ。軽くて通気性が良く、旅行やお出かけにぴったり。ペアで揃えるところに、仲の良さと日常を楽しむ心が感じられます。